2019年5月19日日曜日

ゆく螢

20120819


 
 清少納言さんは季節によって好みの時刻があった。
 夏は夜(宵)が一番良いと書いている。そしてこんな一節がある。
 
 『なお、ほたるの多く飛びちがひたる。また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。』
 
 夏の宵、多くの蛍が飛び違うのもいいが、はぐれたような蛍が一つ二つとほのかにひかり、飛ぶさまはあわれで、何か心に染み入るような感傷をともなう。
 
 三日前、送り火について書いたが、お盆の頃、仲間からはぐれたように飛ぶ蛍は、あの世に帰って行く魂のようである。
 
 このような情景を歌物語にした「伊勢物語四十五段」は哀しいほと美しい。
 
 自分を愛してくれていたが打ち明けられず、それが嵩じてそのままなくなってしまった娘を悼むため、その娘の家で籠っていた。昼は暑く、所在なく、ぼんやりとながめくらしていた。
 宵になりようやく涼しくなった頃、蛍が数匹、とびあがった。
 
 ゆく螢 雲の上まで去ぬべくは 秋風ふくと雁に告げこせ
 
 暮れがたき 夏の日ぐらしながむれば そのこととなくものぞ悲しき

0 件のコメント:

コメントを投稿