錬金術師、中世から近世ヨーロッパにかけて活躍した人々だけど、その作業場での仕事を夢想すると私は惹かれるものを感じます。怪しげなものを混ぜ合わせ、これまた怪しげなものを作り出す。この時代科学的な知見も方法も確立してませんから、行き当たりばったり、フラスコや坩堝(るつぼ)の中から最終的に何が生まれるかやってみなければわからない。
錬金術師は大洋や砂漠、峻険な高山を駆け巡る頑強な冒険家かではありませんが、狭い作業場での物質の探求の冒険ロマンを感じませんか?
探検家のように強い体は持っていなくて、ひ弱で、時々ゴホゴホ咳をしたりなんかしている。怪しげな物質を扱うだけに性格もヒン捻じ曲がっていて陰湿で当然陰謀家、薬品にはやたらと詳しいし、秘薬も知っている。だから黄金だの不老長寿の薬だの有用なものばかりでなく、人をあの世に送る薬(毒薬じゃわな)も作り出す。
有用なものはほとんど作れないくせに、こんな薬は文字通り自家薬籠中のもの。芸術的な毒薬を作り出す。証拠が残らんように、服用してから忘れるほど時を経たある日、急にポテチンと頓死する。あのボルジャ家の毒薬を髣髴とさせる。
当時、悪魔に魂を売り渡した魔術師みたいに思われていたのもこのような側面を見ればむべなるかなですね。でもオイラがこの時代に生きていたらこの仕事についていたかも知れんなぁ~、といっても毒薬製造が主でなく、あくまで有用なものを作り出すのが仕事ですよ、念のため。
さてさて、またまた、前置きが長くなりました。では本日のお題「みずがね」に入ります。みずがねとは水銀のことです。いろんな種類の金属の中で唯一常温で液体であります。普通金属は固くて高温でなければ溶けないものという常識があります。ところがドロドロの液体!それだけで何か只者ではないものを感じさせる金属です。
不思議な性質はまだまだあります。ワイら錬金術師(こら~~ぁ!いつからお前は錬金術師になったんじゃ!)は例によって、怪しげな小部屋でみょ~~な物質をゴニョゴニョやってるわけです。自信たっぷりにやってるようですが、なあーに、なにも知りゃあしません。いろんな物質をフラスコかなんかの中で混ぜ合わせ何か、そうその『何か』が出来んかいなぁ~、と試行錯誤しているわけです。
そんな中で物質を『溶かす』作用のある液体はワイら錬金術師にとって重要なものです。ある物質が溶けてなくなればその残りの溶液は別の物質に生まれ変わる第一のステップとなるものです。そりゃそうですよね。初めの物質が消えてなくならない限りは次の物質は生まれませんわな。その第一歩が「溶ける」ということです。
この水銀は驚くものを溶かしました。なんと、金や銀を溶かすのです。もともと錬金術の大きな目的は黄金を作ること。その黄金をいとも簡単に溶かす水銀は錬金術師に注目されました。金が水銀に溶けてなくなるのなら、水銀を媒介として金も生み出せるんじゃないだろうか。まああまり論理的な思考じゃないけど何か両金属の親和性から、もしかして瓢箪から駒と思ったのかもしれませんねぇ。
それと水銀は魔術的な性質があるということにも気づきました。水銀に長く接触していると精神に異常をきたすのです。今日では水銀蒸気の中毒症状とわかっているんですが中世ではこれを水銀の悪魔的な影響と思われていました。そして水銀の化合物は毒が多いけれども微量用いれば強壮剤(つまりは不老長寿として売りつけられる)、そしてそれ以外の薬効(堕胎効果も知られている、これは不義密通で孕んだ妻や娘に秘密に極めて高価に売れる、エヘエヘ、錬金術師丸儲けだワイ)があるのにも気づきました。もちろん多用すれば恐ろしいことになるけれど、これも水銀の不思議な性質に数えられたに違いありません。
このように錬金術師にとって水銀はとっても大事な物質でした。
この水銀、いつごろから人類に知られていたんでしょう。実はすごく古いのです。超古代といってもいいでしょう。なんでそんな古くから知られていたのか。金属はふつう鉱石から製錬しなければ手にできないと思われていますね。ところが金などの少数の金属は自然状態で金属として存在するのです。金は『砂金』が有名ですよね。黄金の金属のまま産出されます。
その極めてめずらしい自然金属産出の中には水銀も入っています。水銀は岩石な中に自然水銀として産出されるのです。
下が自然水銀の写真です。
何もしなくても鉱石の間から採取される。だから超~~古くから知られていたのです。
長くなりました。続きは次のブログで
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