2019年5月21日火曜日

冬の夜話

20130211

 今夜は冬の夜にふさわしいかどうかわからないがオオカミの話をしよう。というのも2日前に新作のビデオ『ザ・グレイ』を見たからである。雪のアラスカでの男たちとオオカミとのサバイバルアクションであった。その映画に触発されてのオオカミのブログである。
 
 オオカミは犬と極めて近い動物である。というのも『種』として別に分類していいものかどうかちょっと考える。シェパードやハスキー犬などは外形もオオカミに近いが何より分類で区別されないのが両者を掛け合わせれば子ができるし、その雑種も繁殖能力を持ち子孫が増える。(たとえば馬と驢馬の雑種ラバは一代だけで雑種に繁殖能力はない)
 
 犬は何世代にもわたってヒトに飼いならされ家畜化されたもの、オオカミはその原種で野生のもの、ということができる(豚と猪のようなものだ)
 非常によく似た動物ではあるがヒトが両者に対して受ける印象はずいぶん違う。
 
 オオカミは凶暴でヒトに害をなすものではあるが、反面、男性的な強さやシニカルな生き方のシンボルとして使われる。「一匹狼」などはその例であろう。
 それに対し犬のほうは、従順忠実であるという長所もあるが、オオカミと対比させられるときは、格段に劣ったもの卑しいものという評価になる。
 
 「あいつはオオカミだ」 というのと
 「あいつはイヌだ」 というのとでは受ける感じがずいぶん違う。
 
 野生で凶暴なオオカミに親しみなどもてないし、近くで暮らしたいとも思わないが、そんなオオカミに美学を感じる人もいる。江戸時代の作家の井原西鶴は官能の究極の美をたとえてこういった。
 
 「美しい満開の桜が散る下で恐ろしいオオカミが昼寝をしている」
 
 ちょっと常人には理解しがたい耽美的なことばですね。
 
 ところで日本にはオオカミ、いると思います。どうでしょう?
 
 日本列島の動物相は分類上『旧北区』に属します。熊、狐、鹿とともに狼もいます。狼の中の亜種である『ニホンオオカミ』です。しかし、明治時代までに日本本土の狼は絶滅したようです。
 
 このように太古から日本列島に住んでいた日本の狼は人に害をなすものであるため恐れられるが、敬われる存在でもあったようだ。(日本の狼は不思議な習性があり、人が山道を歩いたりしていると後からトコトコついてきたりする、結果的に襲われず無事に家に着くことが多い、これを『送り狼』という、おもろい習性やなぁ~)このように凶暴さは持つが、獣の中では人との相性は悪くない(それが結果的に狼から犬という家畜を生み出すのだが) 各地に今でも残る犬神伝説は狼のこのような見方の一端を示していると思われる。
 
 狼は害獣であると同時に生態系のバランスをとるために意義のある動物でもあった。現在、鹿が増えすぎて植林の被害があるといわれている。鹿やイノシシは天敵である狼がいないため数が増えすぎ、農作物を食い荒らし、人による駆除が必要となることがある。日本において生態系の頂点にある狼がいないためこのようなことになるのである(熊は?と聞かれそうだが、熊は餌の大部分が植物質で肉食はあまりしない)
 
 しかし、これは優しい自然の中にいる日本の狼の話。大陸やヨーロッパではそうではない。そもそも日本の狼は島に閉じ込められたためかうんと小型だ。そのルーツの大陸の狼は大型で凶暴で、人を襲う(人を食肉として食べるのである)
 
 一昨日見たアラスカの狼もヨーロッパの森にすむ狼もそうである。グリム童話に出てくる狼は人食い狼で情け容赦のない恐ろしい動物である。童話赤ずきんに出てくる狼はおばあさんをぺろりと平らげるが、誇張でもなんでもなく本当の話しである。
 
 狼が恐ろしいのは、その集団をつくりそれを組織し、ボスのもとに統率されて攻撃を仕掛けてくるところである。狼一匹では虎やライオンには劣るが、その統率された軍隊のような群れは恐らく獣の中では最強と言っていいのではないだろうか。それに群れのリーダーの狼は勇気、度胸、知能、人間並みか、あるいは戦う集団としてのそれはむしろ勝るかもしれない。
 
 最後に中世パリで起きたこんな狼の話を引用して冬の夜話の締めくくりにしたいと思います。
 
 1420年代のパリ周辺に戦火で、森の中の食料を無くして、その代わりに人間の味を覚えたものか、一番とろくて絶好の獲物が人間だったのかは知らないが、他の狼とは一目見て大きさも統率力も異なる巨大な狼のボス・クルトーが3年にわたって、続々と仲間を従えて人間を襲って餌にしまくっていた。
 ついには狙い定めて百年戦争時のイギリス人すら落とせないパリに進入を成し遂げた彼らは、ノートル・ダム大聖堂の聖職者を食べ尽くして悠々として森に帰っていった。畏怖した人々は誰言うとなく、そのひときわ大きい狼のボスを「狼王クルトー」と名づけた。
 そんな中、パリの警備隊長ポワスリエは、フランス国王であるシャルル7世(在位1422-1461)から「何で俺が王なのに、あっちにもこっちにも(当時イギリス王もフランスの王号を称していた)、そして動物まで王が乱立するのだ、けしからん」と撃退を命令された。
 そして奴らが再度パリに乱入する事を見越して、警備隊長はノートル・ダムに沢山の牛を殺して置いてこっそり罠を仕掛けた。案の定、狼の群れが満ちあふれていたので、今だとばかりに卑怯な弓矢攻撃で一気に片を付けた。
 ところが狼王と側近達は他の狼の死骸を盾に弓矢攻撃をすり抜け、油断して残党狩りにくる兵士を次々に抹殺、激しい白兵戦の後、最後はクルトー一匹が真っ赤な目をしてポワスリエを睨み付けた。男ポワスリエも狼とはいえ果たし状を送られたような状況に逃げるわけにはいかない。  人間と狼の一騎打ちが激しく続き、ポワスリエは遂に槍でクルトーを突き刺しやったと思ったところに、クルトーも最後の力でポワスリエに飛びかかり首を引きちぎり、勇者と狼王は共に絶え果てた。 

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