江戸時代は身分制社会といわれている。その構造であるが一概に士農工商といわれるけれどその中でも特に「士」はさらに細かな身分序列があった。
時代劇シリーズの水戸黄門を見ると山場であり見せ場は、葵の印籠を『ええ~ぃ、皆の者、この紋所が目に入らぬか!』と掲げ、皆の者(悪人も含め)畏まって『へへぇ~~~っ』と平伏するところである。
葵の印籠は水戸黄門様の身分を象徴するものである。その最大の山場シーンにいる者のなかで黄門様の身分が突出しているから、みなが平伏するのである。
平伏する中には、武士はもちろんその武士の中でも上位者の家老や時には大名がいたりもする。大名まで恐れ入ったと畏まるのであるから水戸黄門様の身分は相当上である。ではどれくらい偉いのか考えてみよう。
印籠を見せるときに『恐れ多くもこちらにおわすお方は天下の副将軍・・・』といったりしている。副将軍・・・ということは将軍の次席だから将軍を除いたら一番偉いのか!
将軍(征夷大将軍)はいつも江戸城にいてフラフラ諸国を漫遊したりしないから、水戸黄門が全国津々浦々歩いても黄門様より偉い人はいないということになる。
しかし、この副将軍という身分、幕府の正式な身分序列にはない。水戸家が勝手に言っているか、世間の俗称であって副将軍だから畏まれ!というのはおかしい。それでは正式な水戸黄門様の身分序列はどのようなものだったのでしょうか。
その前に大名(上位武士階級)の序列というのはどうなっているか見てみましょう。例えばここ徳島の昔の殿様、蜂須賀候と隣の県の高松城主の松平何とかとはどっちが偉いんじゃろ、というようなことは何で決まるのでしょうか。
調べると、徳川家との親疎、石高、官位(京都の朝廷からもらう)、それと大名の在任期間(つまり同格なら期間が長いほうが優先される)などが絡み合って一概には言えないことがわかります。
それじゃ困る!と思うが大名同士の比較なら視覚的に非常にわかりやすいのがあります。それは江戸城における将軍拝謁時の各位置です。
下は拝謁場所の江戸城大広間です。一番右が下段の間で畳敷きですが上・中段より低い位置にあります。中段は段差を設け数十センチ高い所、上段はさらに段差を上げてあります。この上段に将軍が座して拝謁を与えるのです。(例として正月の大名拝礼をとりあげます)
それじゃあ、大名は下段でしょうか?なんのなんの!平の大名なんかは下段にも入れません。下段のこちらから向かって奥に襖がありますね。その襖を開けると二の間があるんですけど、そこの二の間の位置に畏まって平伏です。それも3~5人がまとめて一緒です。(そのときは将軍は下段まで降りて立ったまま二の間に向いています。)ずいぶん軽い扱いですね。
大大名だけが下段の間に入れて一人ずつ上段の将軍に拝礼できます(独礼) そのときも大名によって下段の畳の右端から数えて何畳目と決まっています。もちろん上位ほど将軍との距離の近い畳の目になります。そのため各大名の序列は一目瞭然です。
黄門様の水戸家はどうなんでしょう?これは別格です。この例の正月拝礼では水戸家を入れた御三家は将軍の家族扱いで、この大広間ではありません。将軍の私室により近い書院(白書院、あるいは黒書院)にて内々の拝礼となります。
正月拝礼以外の儀式で大広間に御三家(水戸家)が参列する場合は、まず中段の間の上位、大老、老中より上になります。上段は将軍(あるいは並列して将軍世子が並ぶときもある)のみですから、御三家は将軍を除くと武士階級の最上位ということになります。御三家同士で水戸家のみは極官(昇れる最上位)が中納言(他の二家は大納言)という違いはありますが、御三家同士での身分差の優劣はないといっていいでしょう。
そういうわけで黄門様、隠居とはいえ御三家の当主であったのですから全国を回っても彼より上位の大名武士はいないということで印籠は絶大な効果を発揮します。
ところが京都だけはちょっと厄介です。武士ではないんだけど、お公家さんがいます。彼らは天皇の臣でおまけに大大名でもかなわない官位を持っているのがザラにいます。
最後に、この上の大広間の上段に上がって坐れるのは将軍だけといいました。しかし、動画の黄門様と公家のように、この江戸城でも将軍と同格で拝謁の時、下座に坐るわけにいかないので、上段で対面したまま挨拶する方がいました。
「さて、それは、だれでしょう?京都にいる将軍より上位の左大臣、太政大臣?違います。そんな方は幕府が京都に囲い込んで江戸や全国に出れません(禁中並びに公家諸法度で)」
この方です。
ボンさんのようなこの人、将軍と上段で対座してます(同格ですね)、そんなに偉い坊様、だれでしょう。この人、上野の寛永寺の宮様、法親王です。上野の寛永寺でありますからたびたび江戸城にはやってきます。江戸城大広間の上段で将軍と差しで対面できる唯一の例外の人です。
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